相続が争族にならないために①
~兄が預金通帳を見せない~
相続対策というと、相続税の対策を思い浮かべる方が多いと思いますが、それだけではなく、3つのことを考えておく必要があります。
①遺産分割=相続人等が揉めたり争ったりしないように遺産を分割できるように対策しておくこと、
②納税資金=相続税を納税できる資金を確保できるよう対策しておくこと、
③節税=相続税ができるだけ少なくてすむように対策しておくこと、がその3点です。
今回のコラムから3回にわたって、①の遺産分割に焦点をあてて、相続にあたって争わないよう、いわゆる相続が争族にならないようにという観点で、事例を紹介します。
今回のコラムでご紹介するのは、兄弟が親の預金通帳を見せてくれないケースです。比較的よくあるケースです。
登場人物は兄A(亡くなった母Cと同居しており、Aの妻と二人で母Cの介護を10年以上していた)と妹B(嫁いでおり母Cとは別居していた)です。
妹Bが遺産分割にあたって、母Cが残した預金がいくらあるのか兄Aに尋ねたところ、兄Aの返答は「母Cの面倒を見るのに全部使ってしまったから何も残っていない」。
通帳を見せて欲しいと妹Bが頼んでも「手元にはない、どこかにいってしまった」の1点張り。
妹Bからすると「兄が同居をいいことに母のお金を兄Aのためにも使ったのではないか?
実際には預金がまだ残っているのに私には渡さないつもりなのではないか?」と疑心暗鬼になるのも無理はありません。
一方で兄Aにしても「10年以上も夫婦二人で母Cの介護をしてきて相当な苦労をしたのに、何もしていない妹Bが今さら何を言っているのか。
たとえ遺産があったとしても妹Bに分ける必要がるのか」と考えるのも無理もないのかもしれません。この事例では、揉めた挙げ句の果てに兄弟の縁を切るということになってしまいました。
争族になるのは遺産がたくさんある人のことだから、自分たちには関係がないと思っておられる方がいらっしゃれば、それは間違いです。
遺産の大小にかかわらず争いはおきます。それはこの事例をみればすぐにおわかりいただけると思います。
遺産分割に不公平があると感じれば、遺産の大小にかかわらず争いになりえます。
この事例でいえば、妹Bは「子どもは兄弟二人なのだから私も遺産をもらう権利があるのに、兄Aだけなのは公平ではない」と考え、兄Aは「親の面倒は何一つ見ていないのに、妹Bと遺産を(平等に)分け合うのは公平ではない」と考えているのです。
争いが起こるのは、遺産の大小ではなくて、感情のすれ違いなのです。
この事例のように兄弟の一方が親の面倒を長きにわたってみており、他の一方が介護等にはまったく関与していなかったケースでは起こりがちです。
子ども達に揉めてほしいと思っている親は誰もいませんし、親の遺産を巡って争いたいと思っている兄弟も誰もいません。
でも実際には争族はおきてしまうのが現実です。
争族にならないよう、亡くなる前にしっかりと親子兄弟で話しあっておくのがベストです。
話し合えていない場合には、せめて遺言書は残しておきましょう。
遺言を残す際には、遺された子どもたちが納得感を得やすいように、遺言書の中に「なぜこのような分割にするのか」といった想いを書き添えておくことが大切です。
また、遺留分にも配慮したうえで、遺産を作ることも大切でしょう。