相続対策は相続税対策だけではない(1)

相続税申告書

今回のコラムのタイトルを読んで、「意味がわからない」と思った人も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
「相続対策」と聞くと、相続税をいかに節税するか対策することだと思っておられる人が殆どです。
もちろん、相続税の圧縮を検討して対策することも「相続対策」の一部であることには間違いないのですが、それだけでは「相続対策」としては片手落ちです。
「相続対策」として考えておくべき観点は他にもあり、
①遺産分割=相続人等が揉めたり争ったりしないように遺産を分割できるように対策しておく、
②納税資金=相続税を納税できる資金を確保できるよう対策しておく(相続税は現金納付が原則であり、相続があった日から10ヶ月後が納税期限)、
③節税=相続税ができるだけ少なくてすむように対策しておく、
の3つがその観点です。
この「遺産分割」「納税資金」「節税」をバランスよく考えてトータルの対策をすることが、本当の意味での「相続対策」といえます。
この3つのバランスを欠き、節税だけに偏ってしまうと痛い目に遭うことになります。いくつか失敗例を今回と次回にわたってご紹介します。

●失敗例① 小さな賃貸マンションを建てて最上階を自宅にした例

2億の預金をもっていたAさんは、相続税を節税するために1億を銀行から借入れて5階建ての小さなマンションを建てて、その5階部分を自宅として住むことにしました。
相続税を少なくしたいと思った長男と長女からの勧めがあり実行したのです。
節税の観点からすると、2億の預金のままだと3400万ほどの相続税が発生するものが、マンションを建てることにより相続税がゼロになりました(なぜそうなるのかはコラム「収益不動産を活用した相続税の節税」をご参照ください)。
相続税が3400万圧縮できて一見良さそうにみえますが、皆さんはどう考えますか?
確かに節税という観点で考えるといいのですが、遺産分割や納税という観点で考えるとどうでしょうか。
預金は長男と長女で簡単に分割(1億円ずつ)して相続できますが、不動産は簡単には分割できません。持分を1/2ずつにして相続することになりますが、2人の合意がないと不動産の処分(大規模修繕や売却など)はできません。
兄弟かつ2人だからまだ意思の統一はしやすいものの、将来2人が亡くなってその子供たちが持分を相続するようなことになると、持分権者が多数になり(例えば各々2人ずつ子供がいたとすると持分権者は4人)、意思の統一は困難になります。
また、家賃収入や賃貸に関する諸費用も持分権者で分割することになり、揉め事の火種になる可能性もあります。
遺産分割という観点からするとマンションを建てるという考え方には注意が必要なことがわかると思います。
このケースでは直ちに納税資金という問題は発生しませんが、長男長女の子供達が相続することまでも視野に入れると考慮しておくべきことはあります(話が長くなるので詳細は省略します)。

失敗例は次回のコラムに続きます。

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