遺留分の放棄
前々回(遺留分とは?)と前回(遺留分が認められる人・認められない人)のコラムに引き続いて、今回も遺留分についてみていくことにします。
今回のコラムでは、遺留分の放棄について詳しくお話をします。
相続を放棄することができるように、遺留分についても放棄をすることができます。
相続の放棄は、被相続人の残した財産よりも借金の方が多い場合などに行われます。
例えば、被相続人の残した財産が預貯金2千万、銀行からの借入金3千万である場合には、相続すると預貯金も借入金も両方とも被相続人から引き継がなければならないことから、正味1千万のマイナスになってしまいます。
このような場合に相続の放棄をすれば、預貯金を引き継ぐことはできないけれども借入金も引き継ぐ必要はないので、正味でマイナスを抱え込まなくてもよくなるわけです。
では、遺留分の放棄はどのような場合に行われるのでしょうか。
「遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人(被相続人の配偶者や子や親など)が、遺言の内容にかかわらず一定の範囲の遺産を取得することができる権利なので、その権利をわざわざ放棄する人などあり得ないのではないか」と思われた方も多いと思います。
しかし、次のようなケースに皆さんが遭遇したとすれば、皆さんはどういう手をうつでしょうか。
Aは会社Bを経営しており、会社Bの株式の70%を保有しています。
会社Bの残りの株式は、会社Bの役員3人が10%ずつ保有しています。
この役員3人はAの親族ではありません。Aには長男C、次男D、長女Eの3人の子供がいますが、会社Bの後継者は長男Cと決めています。
5~10年先に会社Bの経営を長男Cに譲ろうと考えていますが、それまでにA自身にもしものことがあった場合を考えて、Aは遺言を書くことにしました。
Aの財産は、B社株式1億8千万、預金6千万です。
長男Cが会社を安定して運営していくためには、B社株式の全てを長男Cに遺贈する必要があります(長男Cが会社Bの議決権の2/3超を確保するのが望ましいから)。
しかし、「B社株式の全てを長男Cにやる」と遺言したとしても、遺留分が1億2千万(総遺産額2億4千万の1/2)あることから次男Dと長女Eはそれぞれ遺留分の1/3である4千万を受取る権利があることから、次男Dと長女Eが遺留分を主張すれば、Aが保有するB社株式の全てを長男Cが取得することができません。
さて、皆さん自身がAの立場ならどうしますか。
一つの解決策が、次男Dと長女Eに遺留分の放棄をしてもらうことです。
「B社株式の全てを長男Cに、預金3千万を次男Dに、預金3千万を長女Eにやる」という遺言を残したうえで、Aの生前に次男Dと長女Eに遺留分の放棄をしてもらう。
B社株式は評価額こそ1億8千万ですが、会社Bを経営していく限りは現金化できるものではないため、次男Dと長女Eが会社Bの経営に強い関心がない場合には、預金3千万を遺産としてもらうことで遺留分の放棄をすることに同意する可能性があります。
Aは、3人の子供たちに遺産の分配の合意を取り付け、遺言と遺留分の放棄の手続きを取ることで、自分の目の黒いうちに遺産の分配を確定させることができるというわけです。