土地や建物の相続税法上の評価額③(土地:小規模宅地等の特例)

土地建物

前回と前々回の2回にわたって、土地(自用地、貸宅地、貸家建付地)の相続税法上の評価の基本について概要を説明してきました。
自用地の評価については路線価方式(路線価×面積×各種補正率)と倍率方式(固定資産税評価額×倍率)の2通りの評価法があり、土地を貸したり、家屋を建てて貸したりした場合には、貸宅地としての評価(自用地-自用地×借地権割合)や貸家建付地としての評価(自用地-自用地×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)となり、自用地としての評価額よりも低い評価額となるというものでした。

今回のブログで取り上げる「小規模宅地等の特例」は、相続した土地や相続した人が一定の要件を満たせば、自用地や貸宅地や貸家建付地としての評価額から、更に最大80%の評価の減額を受けることができる特例です。税制上のメリットが大きいゆえ、厳格で細かな要件が設けられており、細部まで説明するには専門的な知識を要します。
このブログでは、一般の人が「小規模宅地等の特例」の概要を理解できるように、複雑で細かな部分は敢えて省略してお話します。従って、読者の皆さんがお持ちの土地が「小規模宅地等の特例」の適用を受けることができるか否か等については、私どもに個別にご相談いただくか、税理士等の専門家にご相談いただけますようお願いします。

小規模宅地等の特例」の適用の対象となる土地は、住んでいた土地・事業をしていた土地・貸していた土地の3種類です。
住んでいた土地や事業をしていた土地に多額の相続税がかかることになれば、相続税を支払うためにこれらの土地を売却せざるを得なくなり(=住めなくなったり事業を継続できなくなる)、相続人が生活をしていくことが困難になることも想定されるから、評価額を減額してそのような事態にならないようにしようというのが、この特例の背景にある考え方です。
小規模宅地等の特例」の適用対象となる土地のことを、住んでいた土地ならば「特定居住用宅地等」、事業を行っていた土地ならば「特定事業用宅地等」、貸していた土地ならば「貸付事業用宅地等」と呼びます。

特定居住用宅地等
特定居住用宅地等とは、被相続人(亡くなった人)が住んでいた宅地注1注2で、配偶者または一定の条件を満たす親族(同居親族等注3)が取得した部分のことをいいます。配偶者が取得した場合には他に要件はありませんが、同居親族が取得した場合には、相続税の申告期限まで継続して当該宅地を所有し継続して住み続けるという要件を満たさなければ特例の適用を受けることはできません。
特定居住用宅地等に小規模宅地等の特例を適用する場合の限度面積は330㎡、減額率は80%です。仮に評価額が2,000万円で500㎡の特定居住用宅地等を相続した場合、330㎡は80%減額できますが、残りの170㎡は減額されません。したがって、土地の評価額は2,000万円-2,000万円÷500㎡×330㎡×0.8で944万円となります。
注1 亡くなった人が老人ホームに入居していた場合でも、亡くなった人が一定の要件を満たす場合には、もともと住んでいた土地を亡くなった人が住んでいたものとできます。
注2一定の場合には、被相続人と生計を一つにしていた親族が住んでいた土地も特例の適用の対象となります。
注3同居親族以外でも一定の親族が取得して一定の要件を満たした場合には特例の適用があります。

• 特定事業用宅地等
特定事業用宅地等は、被相続人(亡くなった人)やその生計一親族が事業をしていた土地で、一定の要件を満たす親族が取得したものをいいます。但し、その相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は除かれます(この3年要件は、小規模宅地等の特例の適用を受けることだけを目的に小規模の事業を行い租税回避することを防止するために平成31年に法改正が行われ導入されました。一定規模以上の事業を行っている場合(租税回避目的ではないと想定される)には、3年以内であっても特例の適用があります)。
特定事業用宅地等に小規模宅地等の特例を適用する場合の限度面積は400㎡、減額率は80%です。仮に評価額が2,000万円で500㎡の特定事業用宅地等を相続した場合、400㎡は80%減額できますが、残りの100㎡は減額されません。したがって、土地の評価額は2,000万円-2,000万円÷500㎡×400㎡×0.8で720万円となります。
事業をしていた土地に小規模宅地等の特例ができる区分としては、亡くなった人の同族会社の事業の敷地に小規模宅地等の特例が適用できる「特定同族会社事業用宅地等」という区分もあります。

• 貸付事業用宅地等
貸付事業用宅地等は、被相続人(亡くなった人)やその生計一親族が貸付事業(不動産貸付業・駐車場業など)をしていた土地で、一定の要件を満たす親族が取得したものをいいます。但し、その相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(3年以内貸付宅地等という)は除かれます。
この3年要件は、小規模宅地等の特例の適用を受けることだけを目的に貸付事業を行い租税回避することを防止するために法整備がされました。
従って、租税回避目的ではなく貸付事業そのものを目的としている場合には(具体的な要件としては、貸付事業を相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き貸付事業を行っていた被相続人等のその貸付事業の用に供された宅地等については)、3年以内貸付宅地等に該当しません。3年以内であっても特例の適用があります。
貸付事業用宅地等に小規模宅地等の特例を適用する場合の限度面積は200㎡、減額率は50%です。仮に評価額が2,000万円で500㎡の特定事業用宅地等を相続した場合、200㎡は50%減額できますが、残りの300㎡は減額されません。したがって、土地の評価額は2,000万円-2,000万円÷500㎡×200㎡×0.5で1600万円となります。



冒頭でも述べましたが、「小規模宅地等の特例」の適用要件は複雑です。
例えば、相続時精算課税の適用を受けた土地には適用することができません。

このブログに記載した他にも細かな要件がありますので、適用を受けることができるか否かについては、私どもに個別にご相談いただくか、税理士等の専門家にご相談いただけますようお願いいたします。

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